【精霊憑きと魔法使い】第十一閃

 

第十一閃『懇願と告白』


「かつての友に、一泡吹かせてやろうじゃないか」

 グレインのその言葉は、即ち、『ロンガ達に修行をつける』ということ。

 力強く言い放ったグレインにメイコが、

「でも、修行って言ったって、時間なんか無いじゃないですか。どうするんです?」

 と、首をかしげながら言う。

「はっはっは! 流石に充分とはいかないだろうが、うん。

 ココにいる皆には、それぞれ素質がある。“七罪星”ともやり方次第では戦える程度までには持っていけるさ」

「……つまり今のままじゃ、どうひっくり返っても勝てない、と」

 苦笑いしながらアイアは言った。

「わかっちゃいるつもりだけど、なんだかなー」

 ダラリと手を下げ背を曲げて、気だるそうな声を出す。

「ハ、修行するにせよ何にせよ、その前に色々と聞かせてもらわねぇとな」

 その場の空気を仕切りなおすように、ロンガが言う。

 その視線は、グレインを捕らえていた。

 “七罪星”のこと、キアラのこと、グレインには様々なことを聞かなければならない。

「ああ、もちろんそのつもりさ。でもそのまえに……」

 グレインはそういいながら、キロに視線を移す。

 それにつられ、ロンガの眼もキロのほうへ。

「…………」

「僕はキロ君が寝返った理由を先に聞きたいな」

 グレインが問うと、恐らく話を切り出すタイミングを計っていたのだろう、キロは緊張を解くように、長く息を吐いた。

「流石はグレイン。何でもお見通しってトコロか」

「はっはっは! 流石に何でもは見通せないさね。まぁ、君が何か言いたがってることぐらい、ココにいる全員気づいてたよ」

 笑いを浮かべながらグレインは言う。

「(ハ、気づいてるわけねぇよ! 適当言いやがって!)」

 と、ロンガが心の中でツッコむ横で、

「(え、皆気づいてたの!? ウソ、私だけ?)」

 アイアは勝手にうろたえていた。

「そういえば、まだ聞かせてもらって無かったわね。あなたがどういう経緯で『七罪星』を抜けて、今ココにいるのか……」

 抑揚の無い声で、キョウコは言う。

「『七罪星』のやり方が気に入らないとかなんとか言ってたけど……結局、あなたがココに来た理由――きっかけは一体何なの?」

「はぁ、分かってるよ、どうせ話すつもりだ。そんなにオレが信用ならんか?」

 両掌を上に向けて、うすら笑いを浮かべながらキロは言――――

「「なるわけねぇだろ!!!」」

     ジャキッ!

「おっと……」

 一方は椅子に座るロンガから。もう一方は壁際に立つキョウコから。

 左右から突き出された二振りの大剣。

 それをキロは、

「ふっ!」

 と、一瞬脚に力を込めたかと思うと、華麗にバック宙を決めつつ、いつの間にか生成していた“神器スキル”で以って両側の大剣を打ち砕きそのまま――着地と共に、床に両膝をつき腰を曲げ掌と額を床につける――いわゆる“土下座”の体勢をとった。

「――――――――」

 ロンガ、キョウコはもとより、その場にいた全員が、凍ったように固まり、言葉を失った。

「ハ…………バック宙しながら土下座とかお前……何、ツッコミ待ち?」

 ある種馬鹿馬鹿しいような沈黙を破ったのは、ロンガだった。

「いや……バック宙から土下座に入ったのには深い意味はないんだが、なんとなく、な」

「……アンタ、この空気どうすんのさ」

 遠い眼をしたリックスが言う。

「いや……できれば無視の方向で……」

 キロの顔は見えないが、きっと気まずさを堪えるのに必死だろう。

「はっは! それでも土下座をやめないってコトは、その“土下座”自体にはちゃんと意味があるんだろう?」

 グレインのその言葉に、キロは少し唸ってから、

「……お前らが……オレのことを信用できないのは分かる。というか、元々敵だったのを信用しろ、と言うほうが無理がある。それでも」

 そこまで言うと、キロはキッ、と顔を上げて、グレインを、ロンガを、キョウコを、部屋にいる面々を順番に、睨むように懇願するような眼で見た。

 ――否。実際、懇願しているのだ。

「それでも、恥を忍んでプライドを捨ててでも、お前らに頼みたいことがある」

「頼みたい……こと……?」

 アイアが、キロを促すように呟く。

「ってか、こんなので尺取らないで、さっさと言いなさいよ」

「流石に冷たすぎるよおねーちゃーん!!!

 バッサリとしたキョウコの言に、メイコが大声でツッコんだ。

「ハ、まるで自分の存在を誇示するかのようなツッコみっぷりだな……」

「ロンガ・シーライド……何故それを僕のほうをむいて言う?」

 眉間に皺を刻んでのリックスの台詞。

「お前も負けるなよ?」

「どういう意味だそれは!!!

「〈氷属性エイク弾丸氷塊ガンズ・ウォク!!!

「「ギャッ!!

 リックスとロンガの後頭部に、こぶし大の氷塊がクリーンヒットする。

「全く……そーいうのは、もうちょっとシリアス味の薄いトコでやりなさいよね!」

 頭を抱えうずくまる、自分の弟とロンガをアイアが咎める。

「ハ、仕方ねぇじゃねえか、この小説、キャグパートとシリアスパートの区別無いし」

 頭をさすりつつ顔を上げてロンガが言う。

「いや、まぁ……そうなんだけどね?」

「なぁ、そろそろ………………話していいか?」

 呆れ果てた、と言った感じでキロは土下座を止め、今は正座の状態だった。

「はっはっは! 愉快なのはいいけど、尺を無駄に使うのは困り者だね!」

 『一番愉快で一番尺を使うお前が言うな』と、キロもロンガもアイアもリックスもキョウコもメイコも、皆総じて思いはしたが、誰もツッコむ者はいなかったという。

「ごほん!」

 キロはわざとらしく盛大に咳払いをして。

「簡潔に、単刀直入に言う」

 ――――刹那、部屋を沈黙が埋め尽くす。

「グラム・ブロックエッジを救ってくれ。そのためになら、オレはどんな協力も惜しまない」

 そう、力強く言い放ったキロの眼は、真っ直ぐとグレインを見据えていた。

「――――」

「グラム……って、あの、“魔法使いウィザード”の女の子のこと?」

 アイアが訊ねると、キロは頷いてから、

「そうか。お前はグラムと一度戦ったんだったな、アイア・シルストーム」

 と言いながら立ち上がり、服に付いた埃を払った。

「ふん、グレイン、お前には『B3-17』とでも言ったほうが分かりやすいか?」

「なっ――――!!?

「……親父……?」

 リックスが、怪訝な顔をして立ち上がり、父親に近寄る。

 アイアもグレインの様子に、ただならぬ雰囲気を感じていた。

「グラム……まさか――――いや、そんな筈は……アレは確かに――だがキロ君なら――」

 椅子に座ったまま、グレインは額に手を当てて、ブツブツと呟いている。

「ハ、ったく、さっきから話が進まねえったらねぇ。

 なんなんだ、その『B3-17』ってのは。その他洗いざらい、知ってることを話したらどうなんだよ」

 ロンガが苛立たしげに、グレインに詰め寄る。

 やがてグレインは、長く細く息を吐くと、

「そうだね。キアラのコトも話すと言っていたし、むしろ丁度いいか……」

 言いつつ、グレインは己が娘のほうを向く。

「アイア、君が『ブラッドボックス』の話をしたとき、『腕に変化する魔導具』とそれを形容したけれど、実際僕の右目がそうであるように、“ブラッドボックス”が媒介とする体の部位はどこでもいいんだよ」

「……? それとどう関係が? そのグラムって子は右腕が“ブラッドボックス”だったってことでしょ?」

「右腕だけ……だったらどんなに良いか」

 吐き捨てるように、憤りのこもった声でそう言ったのは、キロだった。

「はぁ……さっきのキロ君の口上と被るけれども、僕も簡潔に、単刀直入に言うとしようか」

 言葉を紡ぐグレインの顔は、形容するのなら、そう。神に祈りをささげ許しを請うような、そんな表情だった。許されるはずが無いと、わかっていながら。


「『B3-17』――グラム・ブロックエッジ。『B3-18』――キアラ・シルストーム。

 この二者の身体は、その全てが“ブラッドボックス”なのさ」



          Φ          Φ



「――――――――え?」

「――――な、んだ、よ……それ……」

 ロンガやキョウコですら、眼を見開き、息を呑んだその告白に、当事者の姉弟であるアイアとリックスがまともに声を発せられる筈が無かった。

 『それは一体どういうことだ』、と。

「なにも何も、どういうことも何も……そのままの意味だよ。

 頭の先から爪先、脳、筋肉、心臓、その他内臓、器官に到るまで、“ブラッドボックス”という物質でできた――言わばサイボーグ。

 それが我が娘の正体なのさ」

 グレインは重苦しくそういうと、頭に手を当てたまま、項垂れ黙ってしまった。

「それじゃあ、なんだ。僕の! 血を分けたと思っていた双子の姉は! 人造人間だったってのか!」

 リックスが叫ぶ。

 グレインはそれを聞き、

「『人造人間』……それは違うよリックス。

 “BB”には、媒介となる肉体が――“BB”化できる肉体が必要なのさ。

 『B3-17』と『B3-18』は産まれる前、胎児の状態から少しずつ、その身体を“BB”に馴染ませてきただけ。

 キアラは本当に君達と血を分けた、寸分の違いも無く僕の娘だ」

 リックスとアイアに向けてそう言って、おもむろに立ち上がる。

「だから」

 グレインの表情。決意に満ちたそれを見たロンガは笑っていた。

「僕は命を懸けてでもキアラを救いたいし、後悔もしている。

 だから『七罪星』も辞めたのだしね」

「“ブラッドボックスボディ”でB3……全く、ひでぇ計画だったよ」

 キロが自嘲するように言う。

「コレは、僕が、僕の過去とつけるべき勝負でもある……のかも、知れないね」

「ハ、てめーらの過去なんぞはどうでもいい。

 アイアの妹がさらわれた理由が知りたかったんだ、オレは」

 ロンガがぶっきらぼうに、言って。

 一度閉じた眼を再び開く。そこに、確かな闘志を燃やして。

「人造人間だかサイボークだか、くだらねーことはもういいさ。

 叩き潰しゃぁ、いいんだろうが、『七罪星』!!

「さ、夜明けまでに強くしてくれるんでしょ?  もうそんなに時間無いわよ」

 ロンガに触発されたのか、キョウコが笑って言う。

「はっはっは! 君達が少し頑張れば済む話さ!」

「くだらないって…………おまえ……」

 部屋から出ようとするロンガを睨むリックス。

「ふふ! 確かに、くだらないね」

「! アイア姉ぇまで!」

「なにがあっても、身体が何でできていても、キアラはキアラでしょ?

 そこにどんな差があるって言うのよ。ね」

 明るく笑ってアイアは言う。

「…………!!!

「それに、姉ぇちゃんもきっと、何か事情があるはず」

「ああ……」

「アイアさん、リックスさん、置いていかれますよ?」

 メイコの声に応えてから、アイアとリックスは二人で部屋を出た。

 覚悟を、決めて。



          Φ          Φ



「ハ、それで? アイツは何処に行った」

 シルストーム邸の広々とした、と言うよりは広すぎるロビー。

 そこに集まった面々だが、肝心のグレインの姿が見えなかった。

「さっき、『用意がある』とか言って、どこかに行ったぞ。何を始める気なんだろうな」

 キロが辺りを見回しながら。

 その時、階上から、あの快活な笑い声がまた聞こえてきた。

「はっはっは! お待たせみんな!!

「ふぇ……?」

 ドズン、と、その重量を誇示するかのような音を立てて、ロンガたち目の前に置かれたそれは、何やら特殊な呪具、魔導具の類のものらしかった。

 長身のグレインの腰を超える高さの筒。上下の底面以外、透明なガラスらしきモノでできたそれの中には、恐らく普通ではない、水と巨大な水晶が。

 そしてグレインの右手には、怪しい文字の書かれた羊皮紙が三枚。

「ふぅ……コレを運ぶくらい手伝ってもらえばよかったかなー」

 と、自分の肩を揉みながら。

「……グレイン、コレは? オレも見たことが無いぞ」

 キロが大きな筒を指差して言う。

「てっきり、『七罪星』時代の時のやり方で行くのかと思ってたが」

「はっはっは! あれも確かに効果的だが不安定だし、何より時間がかかるからね。

 荒療治の力押しにも程があるが、この方法を使わせてもらうよ」

「で? コレで何をどうしようって言うんだ?」

 ロンガの質問に、グレインは大きく息をつき、真剣な声色で言った。

「コレが最初で最後の説明にして最終確認だ。いいかい?

 この修行は効果的だ。成功すれば全く無傷のままに、強大な力を手に入れられるだろう。

 しかしこの世の中、ハイリスクハイリターンは世の常だ…… ぶっちゃけよう、この修行、失敗すれば死ぬ」

「「「はい?」」」

 ほぼ全員が引きつった笑みを浮かべてグレインを見た。

「ちょ、死ぬって何さ! どんな修行よそれ!!

「全くだぜ親父! 強くなるために死んじまったら元も子もねぇ!」

 アイアとリックスの姉弟が大いに焦って叫ぶ。

「はっはっは! 心配しなくても、アイアとリックス、それにメイコちゃんには、この修行、受けてもらうわけには行かないんだよね。

 残念ながら、コレは“精霊憑きスピリウル ”専用なのさ」

「“精霊憑きスピリウル ”専用……って、じゃあ、私たちはどうすれば?」

 不安がるメイコ。

 グレインはにこやかな笑顔で、

「大丈夫。僕の本職は“魔法使いウィザード”だ。ちゃあんと“魔法使いウィザード”用の修行も用意してあるさ」

 と、右手に持った羊皮紙の束を振りながら言った。

「?」

「さあ! ロンガ君、キロ君、キョウコちゃん。僕の修行を受けるか否か!

 死に打ち勝つ覚悟があるか否か!」

 口角を吊り上げて、明朗な声でグレインは言った。

 それに応えて、

「ハ、愚問だな。死ぬ覚悟なんぞとっくに済ましてあるさ。オレはやるぜ」

 と、ロンガは言った。

「フン、言ったはずだ。オレはどんな協力も努力も惜しまないと。必ず強くなってやる」

 と、キロは言った。

「力が欲しい。そのためなら、死だろうが生だろうが乗り越えて見せるわ」

 と、キョウコは言った。

「はっはっは! 全く、頼もしい限りだね!」

 皆決意の笑みを浮かべる四人から少し距離を置いて、アイアとリックス、メイコの“魔法使いウィザード ”組は口を開けて呆けていた。

「ねぇ、リックス……」

「なんだ、アイア姉ぇ」

「たまに“精霊憑きスピリウル ”がほんとーに化物に見えるんだけど……やっぱりあれ、脳味噌の構造とか違うのかしら」

「……さぁ……違ってても不思議じゃないと今思った」

「妹たる私でも、お姉ちゃんの言動はたまに理解できませんからね……」

「キアラを助けるために協力してくれるのはとても有り難いし、皆それぞれ目的もあるんだろうが……」

「流石に、死ぬ可能性のあることを、あんなに楽しそうにやってもらっちゃ、私たちとの差を感じずにはいられないですね……」

「そういう意味では、“魔法使いウィザード ”でありながら、楽しそうなお父さんが一番ズレてはいるよね……」

 と、三人が苦笑いで話をしていると、

「それでは!」

 唐突にグレインの声が響いた。

 それと同時にグレインは、自分の右眼窩に指を突っ込み、眼球を引きずり出す。

 右手の中のそれが、手のひら大の立方体に変わっていくのを、幾度か見たロンガはもう見飽きたのか眼をそらし、対照的に初めて見るキョウコは興味深そうに、ため息すら漏らしながら見ていた。

「あ、そうだ、コレを渡しておかなきゃ」

 空になった眼窩から血の涙を流しながら、グレインは左ポケットから何かを引っ張り出した。

「ペンダント……か?」

「まぁ、今は何も聞かずに、コレをつけておいてよ。絶対役に立つからさ!」

 グレインの言葉を訝りながらも、ロンガたちはそれを首につけた。

Сократить〈切って〉,Открыть〈開く〉.Галстук〈結んで〉,Закрыть〈閉じる〉.

 Сон в темноте〈闇にて眠る〉 Спящая красавица〈眠り姫〉.

 Сила Вы〈汝が力は〉,Некоторые фантастические!〈夢幻の中に!〉」

 グレインが魔法を詠唱する声が響く。

 その魔力に反応してか、筒の中の水がごぼごぼと泡立ち始めた。

「それではまずはロンガ君」

「ん?」

「夢の世界へ、いってらっしゃい!!

「ハ、え、ぬぁぶっ!!!

 思いっきりの力を込めて。グレインは右手のブラッドボックスを、ロンガの額へパイ投げでもするかのように、叩き付けた。



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 ―――――ここは―――――

「ハ、なるほどねぇ……夢の世界って、そういうことか……」

 何処までも真っ白で真っ白な、床も天井も壁も分からない部屋。

『クスクス、久しぶりだねロンガ。しばらく来ないから寂しかったよ』

「ハ、“風霊シルフ”か……なるほど。つまりは、お前を倒せば強くなれる、と。そういうことか?」

 ロンガはそこまで言って初めて、後ろを振り返り、声の主を見た。

『クスクス……あの“魔法使いウィザード ”随分と面白いことをしてくれるね。

 いいよロンガ。決着をつけようじゃないか』

「…………!」

 そこにいた“風霊シルフ”の姿は、前に見たような子供の姿ではなく。

 ワンピースのドレスのような服を着た、色の長い髪の女だった。

「『“神器スキル”発動――【風霊の大剣ブレード・オブ・シルフ】……!!!』」

 白いセカイでの勝負。コレで何回目だったか。

 そんなことを考えながら、ロンガは存在の無い床を蹴って、駆け出した。





第十一閃――END――

 

 

 

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