【精霊憑きと魔法使い】第十閃

 

第十閃『裏切りと寝返り』


「少しは強くなってないと――死ぬぜお前」

 黒髪の青年キロ・ウッドビレッジは、“手袋”をつけた手で構えながらそう言った。

「ハ! てめぇこそ、オレがあの時のままだと思ったら大間違いだ!」

 銀髪の少年ロンガ・シーライドは、“大剣”を振り回しながらそう言った。

 視線の交錯。

 一瞬の思索。

 両者共に、石の床を蹴って走り出す。

「フン、僅かばかりの間に何が出来るという! 見せてもらおうか!!

 キロの右の拳底。 それをかわされたと見るや右手を引き戻し、すぐさまロンガの脇腹を抉るように左の手刀を突き出す。

「くっ……!!

 反射的に、大剣でガードしそうになるロンガだったが、キロの“神器スキル ”の能力ちからを思い出し、咄嗟に背後へ跳んだ。

「……なんだ、結局逃げるだけか?」

 挑発するように――半分は訝るように――キロが言う。

「ハ、“魔力を食う手袋”…… 何であれガードできねぇのは厄介だな」

 【暴食獣の手袋グローブ・オブ・ベヒーモス】。触れた魔力を際限なく吸収し溜め込む、左右一対、手袋の“神器スキル ”。

 それ故、魔力によって存在を保っている“神器スキル ”や“魔法”の効果で生み出されたものは、強度以前に、其処に“在る”ということが出来なくなってしまう。

 また、身体に直接触れられれば、そこから魔力を吸われてしまう。

「…………」

 ニマリ、と、ロンガは笑む。

「風絶――――一閃!!!

 利き手ひだりで持った銀の大剣で空を一斬り。

 圧縮された風の刃が、キロへ一直線に飛ぶ。

「無駄だ!」

 払い除けるように右手を振って。風の刃は掻き消えて。

「ハ!」

 されどその隙に。ロンガはキロに肉薄し――

「はぁあああああっ!!!

 大剣で斬り上げる!

「くっ――――」

 キロの手袋をした左手は、切先の軌道上。ソレが身体へ届く前に、大剣は崩れ去る――筈だった。


     ――ガイィィィン――


「……ばっ……か、な……!?

 弾かれ高く上がるキロの左腕。

 同じく振りあがる風纏う大剣。

 その風に圧され飛ばされ、空を舞う赤い水滴。

「(――――浅いか!)」

 続けざまに、キロの右側から、凪ぐように一閃が放たれる。

 それをキロは手袋で弾き返した

 もっとも、大剣のその重量である。キロはバランスを崩し、一瞬足が覚束なくなる。

「おらぁああああああ!!!

 そこにロンガは、弾かれた反動を利用して、左回りに回転し、今度は逆側から、大剣を叩き込む。

「くそぉっ!!! (どうなってやがる!!!)」

 辛うじて――その“神器スキル ”を以って――キロはそれを凌ぐが――――

「まだまだぁあああッ!!!

 今度は正中線を切り裂くような縦斬り。

「う、うおぉぉおおおおぉぉぉおおおおっ!!!

 防ぎ切れないと考えたキロは、全ての防御――受身すら――を捨て、その場から思い切り跳び退った。

 その結果、ロンガの大剣は石の床を叩き砕くに終わり、キロは何度か転がって、腰が抜けたような姿勢で喘いでいた。

「は、はぁ……はー、はー……

 (っく、防御どころか、恥まで捨てたぞ今!!!)」

「ハ、かわされちまったか……」

 そういうロンガも、キロほどではないにせよ、息を切らしていた。

「…………」

 キロはしばし逡巡し、

「…………なるほど。そういうことか……」


      //////////


「どういうこと……?」

 ロンガとキロ、二人から少し離れた位置で、アイアは呟く。

 そこには、アイアの父グレイン、“火竜サラマンダー ”の“精霊憑きスピリウル ”キョウコ・フレアライズ、その妹メイコも一緒だ。

「あのキロってヤツの能力ちからは、魔力を吸うことでしょ? どうしてロンガは……あの手袋に“神器スキル ”をぶつけて平気なの?」

 その問いには、傍らのグレインが答える。

「おそらくだが、ヒットの瞬間に、ピンポイントでヒットする場所に多量の魔力を送り込んでいるんだろう。

 魔力を吸収するとは言え、一瞬に全て消し去るわけじゃない。瞬間、無くなった分を補ってやる事が出来れば、それで充分“神器スキル ”の形状は保てるわけだ」

「……なるほどね…………」

 されどそう呟いたのは、アイアではなく。

 遠い眼でロンガとキロの闘いを見ていたキョウコだった。


     //////////


「しかし、そんなにいい策とは思えないがな」 

 ロンガを睨みつつ立ち上がりつつ、キロは言う。

 その額からは一条の血が。

「ハ、そうか?」

「確かにこうして一撃への足掛かりにはできるが、結局お前は魔力の消失を抑えられてるわけじゃないし、結局オレの“手袋コレ”にはお前の魔力が溜まっていくんだ。

 つまるところ、ジリ貧なのは変わらねぇんだよ!」

 キロはそう言うと、ダン! と、床を踏み鳴らし、ロンガへ突進する。

 ロンガはそれに横薙ぎで応戦するが、

「ふっ!!!

 ギンッ! と乾いた音がして。

「……!! な……ッ」

 ガッチリと。

 両の刃を押さえ込むようにして、堅く分厚い手袋が、ロンガの大剣を捕らえていた。

「っつー……やっぱヘビーだな、大剣の一撃は……」

 キロがそう言う間に見る見る間に、ミシリベキリグシャリクシャ、【風霊の大剣ブレード・オブ・シルフ 】は砕け崩れ去り消え去っていく。

「く――――」

 慌てて距離を取ろうとするロンガだが、もう遅い。

 既にそこは、キロの射程範囲!

 スッ、とキロの手がロンガの目の前に伸びる。

吐き散らす万華鏡カレイド・ヴォミット――――!!!

 上下に構えられた両手の手袋から放たれる、魔力の散弾。

「が、ハ――――」

 それは一瞬ロンガの足を空に浮かせたが、吹き飛ばすほどではなく、されど動きは止まらざるを得なくて――――

「ヴォミットブロアー!!!

 右の拳底と共に放たれる、高密度の魔力の散弾。

 散弾、とは形容するけれど。それはあくまで“魔力を放つ”コトが、本来の役割でないが故に、真に『弾丸』にはできないだけであり、吐き散らす万華鏡カレイド・ヴォミットの数倍の密度をもつソレは最早、小型の砲弾と殆ど変わらなかった。

 即ち。

 今度こそロンガは吹っ飛んで。

 無慈悲に壁に叩きつけられ、無残に床に落ちた。

「が、は……、く、くそ……っ」

 地に伏すロンガは、顔をゆがめ、キロを睨むことしかできない。

「ふん、やはりその程度か。ロンガ・シーライド。

 オレに勝てないようじゃ、イミルはもっと倒せないぞ?」

「! ……」

《クスクスクス……》

 ロンガの頭の中で、キロの嘲笑の顔といつか聞いたきりの“風霊シルフ ”の声が重なる。

「~~~~ッ……!!!

 歯を食いしばり、何とか立ち上がろうとする。その眼に宿る怒りは、キロへのものか、醜態を晒す自身へのものか。   

 ソレを見下ろしていたキロの視界を、

 ジャキリ、と。

 紅く燃える炎が遮った。

「いやー……最初に言わなかったか?

 『二人同時は無理!』『一対一だ!』って」

 苦笑いを浮かべながら、横目にその“炎”の持ち主を見る。

 その視線の先には、当然、キョウコ・フレアライズが。

「ええ……だから一対一よ?

 あなたをぶった斬りたいのはロンガだけじゃないの。

 そのロンガがもう戦えないんだから…… 順当に行けば私の番でしょ?」

 


          Φ          Φ



「誰が……『もう戦えない』だ……!!!

     ザゴン!

 ロンガの目の前に、めらめらと燃える大剣が突き立てられる。

「土下座しながら言っても説得力ないわよ?」

 確かに。床に這い蹲り、両手をついて上体を僅かばかり持ち上げているその様は、見様によっては土下座に見えるかもしれない。

「いや、土下座じゃねぇし! オレはまだ」

「負け犬は黙ってなさい」

 ピシャリ、と。ロンガの言葉を遮って。

「…………」

 目の前に突き立てられた大剣と正反対の温度を持つソレに、ロンガは黙り込むしかなかった。

「え。言い包められんの、ロンガ!?

 そんなキロの声も空しく響き。

「ふふ、じゃあ、第二ラウンドってことで――――」

「二人とも、いや三人とも、ちょっとまちなさい」

 キョウコとキロが視線をぶつけ合ったところで、近づいてきていたグレインの止めが入る。

 その後ろから、アイアとメイコも付いてくる。

「…………」

 集まった面々の顔を見まわして、キロは顔を強張らせる。

「ロンガ、大丈夫?」

「ハ、大丈夫に見えるか? ならきっと大丈夫だ」

 ロンガも、アイアに助け起こされ立ち上がる。

「……なんだ? オレを潰すつもりならさっさとかかってきたらどうだ」

 内一人は手負いではあるが、“精霊憑きスピリウル ”二名。それに加え“魔法使いウィザード ”三名。

 対魔力使用者において、無類の優位性を誇る【暴食獣の手袋グローブ・オブ・ベヒーモス】が有るとは言え、完全に危機ピンチなその状況で、キロ・ウッドビレッジは笑っていた。しかめっ面のまま、口元を大きく歪めて。

「……おかしいんだよ、キロ君」

「おかしい? はっ、何がだよ」

「君がここにいることが、だ」

 キロは眼を細めて、言葉の主、グレインに視線を固定する。

 周りの者も、グレインの言葉を怪訝に思い、真剣な面持ちで次の言葉を待っている。

「おかしいんだよ、キロ君」

 グレインは繰り返す。

「僕が邪魔なら、ロンガ君を攫っていきたいなら、腕利きを集めて大人数でこの屋敷を襲撃でもすればいいのに、イミル含め“七罪星”はソレをしない。 

 何故か? 理由は簡単」

 そこまで言って、グレインは鋭い眼でキロを見据える。

「集められる人数にも限度がある。それにこの街は、僕の家シルストーム家含めいくつかの“魔法使いウィザード ”の家と、“魔力”の使用に大反対の教会勢力、さらには“七罪星”なんて異能集団が混在する、言ってしまえば特殊な街だ」

 ロンガはグレインの台詞を聞きながら、初めこの街に来たときに、協会の許可の下、例外的に“魔力”を振るう“断罪者”と一戦交えたことを思い出す。

 もっとも、アイアの姉、ティレイの乱入というか、無差別勝手な攻撃で『勝負』にはならなかったが。

「大きな人数を集めれば、教会に感付かれて睨みを利かされかねないし、下手を打てばそのまま激突、戦闘、ってことにもなりかねない。

 だから、そう簡単に大人数で攻めるわけにはいかないんだ。

 かと言って、今日のように一人や二人では逃がしてしまうし、何より本気で戦うなら互いに無事では済まない」

 暫しの静寂。

「キロ君。僕は君の単独行動が、組織としての“七罪星”の意向に沿ったもの、少なくとも許可を取ったものには、どうしても思えないんだよ」

「「……話が長いぞ、グレイン。って! ハモってんじゃねぇよ!!」」

 ツッコみまでハモるロンガとキロ。

「あんたら、ホントは仲いいんでしょ……」

 呆れたような顔でアイアが言った言葉はも、あながち間違いではないかもしれない。

「ハ……とにかく、今この状況で、キロがここに来るのはおかしいってコトか」

「いくらロンガ君との一騎打ちに勝ったとしても、僕たちにキロ君を大人しく帰す理由がない。

 仮に、この街の事情云々がなかったとしても、キロ君ならここに乗り込んできてただじゃ済まないのは分かっているはずだ」

 表向きはロンガに応えてのその言葉。だが、グレインの話し方は明らかにキロへ意識を向けていた。

「じゃあ……このヒトは、どうしてココへ……?」

 メイコがキロとグレインの顔を交互に見ながら。

「はぁ……なんか、剣呑な雰囲気だなぁ、オイ」

 両手のひらを上に向け、呆れたような諦めたような苦笑いを浮かべ、口調は軽く。キロはそう言った。

「単刀直入に言う」

 軽かった口調が、少し重みを増す。

「“風霊シルフ ”ロンガ、それに“火竜サラマンダー ”キョウコ。

 お前らはいますぐ――――」


『〈氷属性:鎚撃雹弾エイク・クリス・ガンハンマ!!!


 呪文の詠唱が広い部屋に響くと共に降り注ぐ、複数の大きな氷の塊。

「くっ……!?

「ふん」

「わっ」

「はっは!」

 それはおそらくキロを狙ったものだったのだろうが、その大きさと数に、近くにいたキョウコ、グレイン、メイコまでもその場を飛び退いた。

     ズガガガガガッ

 氷の塊が、固い床を抉り、突き刺さる。

「姉ぇちゃん!?

 ロンガ達のいる一階ロビーと、二階の廊下は吹き抜けになっていて、空間的には繋がっている。

 その二回の廊下の柵に片手を置き、アイアの姉、ティレイ・シルストームは立っていた。

「驚いたな……もう復活しやがったのか……」

 憎々しげに、キロが呟く。

「キロ・ウッドビレッジ」

 ティレイの口から出たのは、キロの名前。

「ご苦労様」

 続けて出たのは、あろうことか労いのそれ。

 その場にいる全員が、困惑した面持ちでティレイを見上げる。

「! バカな! ティレイお前、まさか!!!

 逸早く、何かに気づいたグレインが大声を上げる。

「さようなら、お父さん」

 ニコリ、と。

 一片の曇りも偽りも無く、満面の笑顔を残し、ティレイは奥へ姿を消した。

「くっ……!!

 それを反射的に追いかけるように、グレインは走り出し、階段を駆け上がる。

「……? なんだ? 一体何が……」

「とにかく、私たちも上に行ってみましょう、ロンガさん」

 うろたえるロンガにメイコが言う。

「ああ……」

 頷きつつもロンガは、キロを見やる。

「……ロンガ、オレにも行かせてくれないか」

「…………」

「オレはもしかすると……」

「ハ、勝手にしろよ。ただ、後ろから不意討ちとか、そういうのは勘弁な」

 ぶっきらぼうに、ロンガは言う。

「感謝する……」

「ロンガ、早く行かないと。歩ける?」

 アイアの言葉に頷き、ロンガは足を踏み出すが、すぐによろめき、結局アイアの肩を借りることになった。



          Φ          Φ



「リックス!」

 シルストーム邸、二階。

 ロンガ達がほんの数刻前までいた、その部屋には、怪我をして自分の部屋で休んでいたはずのリックスが、横たわっていた。

「お……親父……」

「リックス、何があった? ティレイは。キアラはどうした」

 リックスの身体に、目立った新傷は無い。

 額を押さえ、僅かに頭を振って、自分の意識をしっかりさせてから、リックスはこう言った。

「親父、大変だ。キアラが……キアラがさらわれた……!!

「――――!!!

「さらわれたって誰に……まさか……」

 言葉を失うグレインをアイアが代弁する。

「ティレイ姉ぇだ……」

 歯を噛み締めて、リックスはその名を口にする。

「そのときのこと、詳しく話してくれる?」

 アイアが沈痛な面持ちで、屈んで、リックスと視点の高さをあわす。

「僕は、キアラに呼ばれたんだ。ティレイ姉ぇが大変だからって……多分あんたらが階下で白熱してる時だったろう、ココまで声や武器のぶつかる音が聞こえてたよ……」

 ロンガとキロをみながらそこまで言って、リックスは再び目の焦点を虚空に求めた。

「キアラと二人、この部屋に来てみれば、ティレイ姉ぇが立っていて……

 そこからはいまいち覚えてない……何か、そう、聞いたことの無い呪文を姉ぇが唱えたんだ……

 そしたら急に身体が動かなくなって……視界がどんどん暗くなって……

 くそ!」

 荒々しく、右手で床を強く殴りつける。

 リックスは、歯を食い縛り、押し黙ってしまう。

「どういう……ことだ? いや、どういうつもりなんだ、お前の姉貴は」

 傍らのアイアにロンガは言葉を向ける。

「わからない……けど……ひゃっ!?

 これまで膝を付いていたグレインが急に立ち上がり、横のアイアも、前のロンガも押し退けて、キロの胸倉を掴みにかかった。

「っな……!!

「お父さん!?

「キロ! お前は……いや、お前らは知っていたのか!? 分かっていたのか!」

「な、何の話だ!? オレはただ……これ以上『七罪星』……イミルが動き出す前に、“四大精霊”は今すぐ街を離れたほうがいいと……」

 キロの言葉に、ロンガとキョウコが訝しげな視線を送る。

「ねぇ、あなたはその『七罪星』側なんじゃないの? それがどうして私たちに忠告を?」

「……詳しいことはまた話すが……簡潔に言って、『七罪星』の目的に不満を感じた。そういうことだ」

「キロ君……じゃあ、『七罪星』が“知っていて”、キアラをさらうつもりで来たんじゃないんだな?」

 今だキロの胸倉を掴みあげたまま、嘘を許さぬ口調と顔で、グレインが言った。

「あ、ああ……お前も言ってたろ? オレが敵対勢力の一人として独りで来て、

無事に済むはず無いんだから。グラムもムラマサも本当にココにはいない。

 それに、あんなやり方で、どうしてそいつだけが部屋に残るってわかるんだ」

「ハ、なーんか、ややこしいことになってきたな……

 とりあえずなんだ、確かなことは、キロが寝返ってアイアの姉貴も寝返った。

 ……そういうことだよな、グレイン」

「ああ……どうやら、そういうことらしい……」

 そこまで言って、グレインは初めてキロの胸倉から手を離す。

 キロは一度、咳払いをして、

「『もしかしたら』と思ってロンガとサシ張ってはみたが、期待はずれにして予想通りだったよ。たぶんこの調子じゃぁ、傭兵団としての『七罪星』はともかく、そのトップ集団としての“七罪星”を相手取れば……勝ち目は薄い」

 キロの辛辣とも取れる言葉に、ロンガは言葉を詰まらせるが、結局何も言うことは無かった。

「でも……ホントに姉ぇちゃんは裏切ったの?」

「可能性は高い……いや、間違いなく確かだ」

 アイアの口から出た疑問きぼうを、グレインはあっさりと否定する。

「どうして! そんなことが分かるの?」

「ハ、アイア……見てなかったのか?」

 椅子を引き寄せ、そこに座ると、ロンガが言う。

「あいつ、さっき魔法使ったとき、“魔導具”……持ってなかったぜ」

「――――――!!

「……? ねぇ、メイコ、魔導具ナシで魔法って使えるものなの?」

 キョウコが自分の妹に問いかける。

「いや、少なくとも普通一般の常識としては不可能だよ……」

「そうか、お前らは見たこと無いんだな、ブラッドボックス」

「肉体と繋がったままのブラッドボックスでも、ある程度の魔法の行使は可能だからね……

 それにソレの製作者たる僕が感じたんだ、間違いない。ティレイはブラッドボックスを持っている」

「………………」

 フレアライズ姉妹は、説明を欲しそうな顔をしていたが、今は訊くべきときではないと判断したのか、口を噤んだ。

 すでに“神器スキル ”の消えた手で、キロは頭を掻いて、

「結局、オレがココに来たのも、遅かった、いや逆効果だったのか……

 キアラとやらをさらったのは、ホントいい手だ。

 “さらわれた”以上、早く助け出さねばならない。“早く助け出さねばならない”となると、一度町を離れて、とか、悠長なことは言ってられない」

 ため息を交えながらそう言った。

「ハ、『攻められないなら攻めてきてもらおう』ってことか……」

「……キロ君の話を聞く限り、さらわれたのがキアラだったのは、偶然のようだが、まぁ、一番さらいやすかったのも事実か……

 どちらにせよ、まずいことになった…………」

「? ねぇお父さん、キアラがさらわれたってだけで充分まずいことなんだけど……もしかして、ほかに何かあるの?」

 頭を抱えて俯く自分の父親に、不思議そうな顔を向けてアイアは問う。

「それは私も気になるわね、あなたの『知っていたのか』って言葉、キアラちゃんが“さらわれた”事実とは別のことを言ってるように聞こえたわ」

 そこにいた全員が、グレインに注目する。

 そんななかで、グレインは重々しく口を開いた。

「仕方ない。いや、特にアイアやリックスには、今まで黙っていて悪かった。

 皆にも話そう、キアラの秘密。いや、これは僕自身の秘密とも言える」

「…………!!

「そして、ロンガ君、キョウコ君、キロ君、いや、アイアもリックスもメイコちゃもだ」

「…………? なんだよ、親父」

「私も……ですか? て言うかなんで私だけ『ちゃん』付け……」

「夜明けまでに、」

 目を閉じグレインは言う。

「君達全員、」

 目をゆっくり開きグレインは言う。

今の二倍はおもいっきり強くしてやる!」

 力強く。怒りと決意に満ちた眼と表情で、グレインは言った。

「よ、夜明けまでに、って…………」

「はっはっは! 早い話、『今夜は寝かさないぞ☆』ってことさ!」

 娘をさらわれた怒りやら娘が敵となった悲しみやら、様々な感情が裏返ったのか、グレインのテンションはいつの間にかあがりきっていた。

「お父さん……きもいよ……

 ま、それぐらいしないとダメなのかもね。私だってロンガ達に置いていかれるのは御免だし」

 と、覚悟を決めるように、アイア。

「ハ、望むところだ。いや、望んでたところだ。戦いの直後ってコトで、ちとキツイが、ホント、それぐらいやらねぇとダメみたいだな」

 心底うれしそうに、心底凶悪な笑みを浮かべて、ロンガが。

「今より強くなれるなら、断る理由は無いわ」

「もちろん、私も」

 キョウコ、メイコのフレアライズ姉妹も。

「くっくっく……ったく何年ぶりだよ……稀代の天才、[雹王]、“凍血の魔法使いウィザード ”! 数々の異名をとったグレイン・シルストームの指導を受けるのは!」

 キロも子供のような笑みを浮かべながら。

「本来なら、僕は外野のようだけど……双子の姉を実の姉にさらわれて、僕も相当頭にきてる。参加させてもらうよ、親父」

 リックスも、確かな決意を眼に宿して。

「うん! では! かつての盟友に、一泡吹かさんことを……!!

 声高に、グレインはそう叫んだのだった。





第十閃――END――

 

 

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