【精霊憑きと魔法使い】第八閃

 

【精霊憑きと魔法使い】

第八閃『逃亡と再会』


 

「俺が目下興味があるのは、君が我々の用件を理解してくれているかどうか、ということだよ、グレイン」

 リックスとロンガの決闘が終わり。

 多少なりとも緩やかな時間が流れるかと期待された午後。

 それを屋敷の壁とともに粉々にして、中庭に現れた二人の乱入者。

「……くっ…………」

 ロンガは、頭を押さえながら、なんとかその身を起こす。

「ロンガ……」

 アイアが声をかけるも、ロンガのその眼は完全に、イミルという大男と、もう一人の乱入者、短く切りそろえた金髪の少年のほうへ向いていた。

「どういうことだ、イミル・ルカーソン。 お前らは、オレに用があったんじゃないのか」

 立ち上がってロンガは言う。

「フ、もちろんそのつもりだが、先に確認すべきことがあるのだよ」

「エイク・ブリザ・ウォク!!!!

 突然に、イミルに襲い掛かる冷気の弾丸。

 それをイミルは、左腕で受ける。

「………………フ」

 凍りついた左腕には何の感情も示さず、歪んだ笑みを、グレインに向ける。

「……出て行け……ッ!!!

「…………!!? お父さん……!?

 娘であるアイアですら、見たことのない、父の怒りの表情。

「フゥ…… それがお前の“答え”か、グレイン」

「前々から言っているだろう?」

 グレインは、 傍らで震えていたキアラに、

「キアラ。お前は、リックスをつれて、出来るだけココから離れるんだ。屋敷からもね」

 そう声をかけた。

 それを聞いてキアラは我に返り、

「わ、わかった……」

 と、金髪の少年の横で倒れるリックスを、勇敢にも助け起こしに行き、何度かグレインたちを振り返りつつも、中庭から去っていった。

「…………残念だよ、グレイン」

 イミルが凍りついた左腕を右手で掴むと、ミシリミシリと音を立てて、その氷が崩れ去った。

「…………フン、やはり効いていなかったか」

 憎憎しげに、グレインが呟く。

「まぁ……今回は、君への用はついでだったわけだしな。 今日のところはもうどうこう言わんよ」

 その台詞は、左手を開いたり閉じたりしながら。

「だが、本来の目的……」

 それまで無表情だったイミルの顔が、途端、嗜虐的なものに変わった。

「“風霊シルフ”の回収はさせてもらうぞ!」

「くっ……!」

 イミルの声に反射するかのように、ロンガは立ち上がり、大剣を構える。

「ちょ、ちょっとまってよ……“風霊”って、どういうこと?

 ……どうしてアンタは、アンタ達はロンガを狙うの!?

 ロンガの隣のアイアが、イミルに向かい、恐る恐る言う。

「……黙ってろアイア。 これはオレと、こいつの問題なんだよ」

「そんな……!」

「ほう……他人を巻き込まんとするか。 なかなかいい心がけじゃないか……なぁ、我が息子よ」

「い――――!?

 ポニーテールを、振り乱して、アイアがロンガのほうをむく。

「い……いま、なんて……?」

「ハ、聞いたとおりだ。 オレは、そこのイミル・ルカーソンの息子なんだよ」

「んな――――!?

 再び驚愕の声を上げたアイアを尻目に、ロンガはイミルに向かい、

「おい、糞親父。オレがおとなしくお前についていくって言ったら……こいつらを傷つけないって、約束できるか?」

「ロンガ……?」

「フ、五年でずいぶん利口になったな…… 生意気なのは気に食わんが、いいだろう、約束しようじゃないか」

 大男イミルが、ロンガに手を差し伸べる。

「ダメだ!」

 そういって、ロンガの腕を掴んでとめたのは、グレインだった。

「……はなせ。 このままここにいたら、お前らにも迷惑がかかる」

「はっはっは、それが案外、そういうわけにも行かないんだよねー」

「? どういうことだ……?」

 訝しむロンガに、そしてイミルにも、グレインは柔らかな、刺の無い声で言う。

「ロンガ君はさっき、『自分とイミルの問題』だと言ったけど、案外そうでもなくてね。 関係のある人は、結構他にもいるんだよ」

「……何が言いたい……?」

「それは――――」

「――!! ビリー! 奴を止めろ!!

 イミルは、傍らにいた金髪の少年に向かい叫ぶ。

 その少年は、イミルの言葉に一瞬遅れたものの、すぐに反応し、右手に魔力を込めるが――――

     ズブリ

 ビリーと呼ばれた、金髪の彼の“神器スキル”の発動より、ずっと早く。 グレインは、その中指を、自分の右目に突っ込んだ。

「なぁっ……!! 何やってんだお前!」

「お、お父さん!?

 気味の悪い音を立てて、グレインの眼窩から引き抜かれる何か

 それと共に、グレインの口から、高度な魔法を発動する呪文が零れ落ちる。

「Земля〈大地〉,Замораживает〈凍れ〉Sharpen〈鋭く〉 резкость〈尖れ〉

 一瞬にして、ロンガとアイア、イミルと金髪の、その間の地面から、水晶のような、氷の塊が立ち上る。 その鋭い切先を、すべてイミル達に向けて。

「く――――!?

「…………!!

 それを避けるべく、イミルと共に、ビリーは“神器スキル”の生成を中断して、後ろに飛び退く。

 ロンガとアイアは、その場から動く必要すらなかったものの、その驚きは、イミルたちと同程度のものだった。 否、アイアにいたってはそれ以上だろう。

「お父さん……その……手の……」

「はっはっは! まぁ、事情は後でゆっくり説明するさ……」

 グレインの右手に握られていたのは、眼窩から引きずり出した自分の眼球……ではなく、血を固めたように赤黒い、立方体だった。

「ブラッド……ボックス……」

 にこりと笑い、グレインは、次の魔法を詠唱する。

Открытый〈開け〉, пустьлетят〈飛べ〉, исчезаютдела〈消えよ〉.

Моеместовам〈此処は彼方に〉. Моикрылья,ангел〈光は翼に〉.

I,Ронга,Aia из нас,Местонахождение Где〈我らが消息は何処〉!!!

「何をする気だ、グレイン!!

 叫ぶイミルの目の前で、グレイン、ロンガ、アイアの三人が、青白い光に包まれる。

「“神器スキル”……【」

「……!!

 同じく、光に包まれていく、ロンガの視界。 そこでロンガは、金髪の少年、ビリーの“神器スキル”の姿を、ハッキリと捉えていた。


 


 

          Φ          Φ


 


 

「……イミルさん……あいつらは? どこに消えやがった」

 それまでほとんど声を発しなかった、金髪の少年、ビリーが、不思議そうにかつ、苛立たしそうに、イミルに問う。

「フ……俺としたことが……やられたよ」

「やられた?」

 グレインの創った氷。 その残滓を眺めて、ビリーが眉をひそめる。

「ああ、空間転移魔法なんて……洒落にならないほど高度で、希少な魔法を使うとは思わなかった」

「古代魔法……か……」

「フン、まぁいい。 あんな魔法を使ったんだ。 少なくともグレインはしばらく動けないだろうし、とりあえず一度帰るとしようか」


 


 

          Φ          Φ


 


 

「う、が、お……ぅえ゛ぇえぇ…………」

「ロ……ロンガ……大丈夫?」

 ヒフトフの街の外、木々のまだらな森の中で、アイアは、嘔吐するロンガの背をさすっていた。

「がは……っ……はー、はー、サンキュー、もう大丈夫だ……」

「はっは……ごめんね、ロンガ君。 アレってさ、やっぱり気分悪くなるよね」

「……そういうあんたは大丈夫なのか? 相当ヘバってるみたいだが」

 グレインは、地面に座り込み、背中を木に預けていた。

「はっはっは……やっぱり、そう見えるかい? 正直ちょっと……動けそうにないんだ」

 心なしか、笑い方もぎこちなく、額には汗が滲んでいた。

「お父さん、本当に大丈夫なの? 空間転移なんて……」

「はっはっは、アイア、君は絶対真似をしないことだね。 ただでさえ果てしなく高度なのに、三人一緒なんて、間違いなく寿命を縮めるよ」

「笑い事かぁっ!」

「ハ、確かに笑い事じゃないぜこれ……これからどうするんだよ……

 まぁ、それはおいおい考えるか」

 そういって、ロンガはグレインの前に腰を下ろす。

「……いろいろ聞きたいこともあるしね」

 アイアも、その場に足を抱えて座った。

「やれやれ……まぁ、話さないわけにも行かないか……

 だが、何から話したものかな……」


 


 

          Φ          Φ


 


 

「もしかすると、薄々感づいているかも知れないけれど、僕はずっとまえ……そうだな、キアラとリックスが産まれる直前ぐらいまで、『七罪星』のメンバーだったんだ」

「「………………」」

 グレインの話を、神妙に聞くロンガとアイア。

「その、『七罪星』について、もっと詳しく教えてくれないか?」

  ロンガが言う。

「あぁ。 『七罪星』はね、前にも言った通り、“精霊憑きスピリウル”や“魔法使いウィザード”ばかりの傭兵団……いや、何でも屋なんだけど、そのトップに位置……というか、名目上の幹部と言えるのが、原罪になぞらえた[称号]を持つ七人だ」

「七人もいるの……?」

「まぁ、これは『七罪星』発足時のメンバーが七人だったとか、いろいろ理由はあるんだけど、実質、そのトップ七人の中のさらにトップ……『七罪星』のヘッドとも言えるのが、あの“[強欲]のイミル”こと、イミル・ルカーソンだ」

「ハ…………」

 ロンガは、左手の親指を唇に当てて、少し考えてから、

「あんたの実力なら、その七人の中に入れるぐらいの地位にはいれたんじゃないのか?」

 と言った。

 もっとも、ロンガは、まともにグレインが戦ったところを見ているわけではないので、その実力の判断材料は、先ほどの転移魔法ぐらいしかないのだが、それでも。 彼の実力が並から掛け離れていることぐらいは、理解できた。

「はっはっは! 僕なんかがまともに戦ったって、七人中五位ぐらいが関の山じゃないかな。 特に今の“[称号]持ち”はね」

「え゛……そんなに強いの、あいつら……」

 アイアの顔は苦笑い。

「まぁ、そりゃあ、ね」

「なぁ、さっき『今の』って言ったけど……」

 ロンガが眉をひそめて、問う。

「あぁ、あれか。 『七罪星』は、完全に実力主義だし、“[称号]持ち”も、僕が抜けた後で、死んだり新参者に取って代わられたりして、ころころとメンバーが代わってるんだよ。 僕が居た頃から代わっていないのは、イミルと、後はせいぜいもう一人ぐらいだ」

「あの金髪の野郎は?」

 ロンガは、その金髪の少年、ビリーが一瞬見せた、“神器スキル”の形を思い出していた。

「彼は……僕も知らないなぁ……けれど、前に言ってたろ、キロ君。

 僕が居た頃は、彼はまだ新米だったんだけど、なんせ、存在だけで特異な“精霊憑きスピリウル”の中で、さらに特異な“神器スキル”を宿してたし、僕の引退後も何度か会ったことがあるんで、覚えてるんだよ」

「キロ……か……」

「あぁ、そうだ! 何でお父さんが、その……“ブラッドボックス”を持ってるのさ」

「あぁ、これか」

 グレインは、下瞼を中指で押し下げて、自身の――すでに“右目”として眼窩に収まった――右目ブラッドボックスを露にする。

「当たり前といえば、当たり前なんだよね。僕がこれをもってるのは。

 だって、“ブラッドボックス”は、僕が製作つくったんだから」

「え……!?

「『七罪星』の中での僕……というより“魔法使いウィザード”の役目は専ら、戦うことよりも、そういう“魔力”とか“魔法”とか、そういうモノの研究が主なんだ。

 そのせいか、今の“[称号]持ち”は全員“精霊憑きスピリウル”だそうだ」

 過去を懐かしむように話すグレイン。

「もっとも、ブラッドボックスの開発は、僕とイミルが共同でやったんだけどね」

「じゃあ、それで完成したのが……」

「それがさ、完成じゃないんだ。 “ブラッドボックス”の完成は、まだ完成じゃない」

「? どういうことお父さん」

 アイアの問いに、グレインは、その右手の人差し指を唇に当て、

「残念ながら、これ以上は話せないんだよねー」

「はぁ!?

「おいおいおい……話せないってどういうことだよ……」

 アイアだけで無く、ロンガも呆れたように文句を言う。

「……後の楽しみがなくなるだろう?

「「そんな問題かっ!!!」」


 

     ビシィッ!


 

「ガファぁっ!!

 アイアとロンガの、息ぴったりの裏拳が、グレインの鼻面に決まる。

「う……動けない相手に……それは酷いんじゃないか二人ともっ……

 せめて鍵括弧ぐらいくくる暇をくれよ……」

 鼻をおさえてうめくグレイン。

「あぁ、わりぃ、つい……」

「あはは……」

 詫びるロンガと、笑って済ますアイア。 二人して罪の意識は薄いようだ。

「ハ、まぁ、話せないのなら別にいいからさ……」

 仕切りなおすように、ロンガが言う。

「その、なんだ、“ブラッドボックス”っての、もっと詳しく教えてくれないか?

 アイアから名前聞いたのと、お前がさっき使ってたやつ見ただけなんだ」

「あぁ、そっか、ロンガはあの女の子と戦ってないもんね」

「あのキロと一緒にいたやつだよな?」

「キロ君と一緒に……? あの子は他人と一緒に行動するタイプじゃなさそうだったが……まぁいいか。 ブラッドボックスだったね」

「…………」

 改めてグレインの方へ向き直るロンガ。

「その前にロンガ君。 君は、魔法を使おうと思ったことはあるかい?」

「無いわけでは……ないなぁ……こっそりアイアの杖借りたりもしたし……」

「したのかよ! 何で勝手に!」

「ハ、別にいいじゃねえかよ……

  だって“神器スキル”と“魔法”両方使えたら最強じゃん?」

 ちょっとばつが悪そうに言う。

「そう! それだよロンガ君。 “精霊憑きスピリウル”の殆どが一度は考えてみることだ。

 で。 魔法は少しでも使えたかい?」

「ハ、全く無理だったぜ。 やっぱ見よう見まねで出来るもんじゃ――――」

 グレインは人差し指をロンガの目の前で立て、ロンガの台詞をとめた。

「見よう見まね? ロンガ君、たとえ50年かけて勉強しようとも、君に魔法は使えないよ」

!? ……どういうことだ?」

「そもそも魔法というのは、大昔、まだ“魔力”の存在に気がつき始めたころの人間が、同じくそのころから現れ始めた魔力生物モンスターなんかに対抗しようと、その乏しい魔力を利用しようとして生まれたものなんだ」

 魔法の歴史を語るグレイン。

「ここまで言えば、アイアには分かるんじゃないか? ロンガ君がまったく魔法を使えない理由が」

 そういって、悪戯っぽい笑みで、アイアのほうを見る。

「ふぇっ……なんで私に振るのよ…… えーっと……

 もしかして、ロンガが“人間”じゃない“精霊憑きスピリウル”だから?」

「そう、その通り!」

「……まったくわからんぞ、何でオレが“精霊憑きスピリウル”だったら、魔法が使えないんだ?」

 頭をかいて、しかめっ面のロンガ。

「簡単に言えば、魔力の“型”が違うんだ」

「型?」

「そう、“魔法”は、複雑で難解な古代魔法だろうと、簡素化されて、決まった組み合わせで容易に発動できる現代魔法だろうと、あくまで人間が、自分たち人間用につくったものなんだ」

「“精霊憑きスピリウル”も、人間だ」

「見た目と考え方によってはね。 けれど“人間”と“精霊憑きスピリウル”、その二者の間には、蜥蜴と竜ぐらいの差があるんだよ」

「…………」

 “精霊憑きスピリウル”。 それは、“魔力”をより高度な次元で扱えるように進化した人間。 怪物の人間版、である。

「で? それと“ブラッドボックス”、どう関係があるのよ」

 アイアが、この話の主題を引っ張ってくる。

「はっはっは! つまりね、『魔法を使える精霊憑きを創ろう』それがブラッドボックス製作のコンセプトなんだ」

「「…………!?」」

「“魔導具”は、魔法使いウィザードが自分の魔力を集中させ、魔法の発動のよすがにする物だが、“呪式魔導具”、すなわち“呪具”は、それにさらに魔法的な効果を付け加えたものをいう。

 つまり“ブラッドボックス”の場合、『付け加えられた効果』が、『魔力の“型”を変えること』なんだ」

 自分の右目の下を指で撫でながら、グレインは言った。

「でも、お父さんは“精霊憑きスピリウル”じゃないでしょ?」

「そりゃあね。 でも魔力の“型”を変化させるコトのメリットは他にもあるんだよ」

 そういうなり、グレインは自分の右手の中指を、同じく自分の右目にズブリと、先刻イミル達の前でもやったように、抉り込ませる。

「ひっ!」

「…………っ」

 アイアが声を上げ、ロンガは顔をしかめる。

 抉り出された眼球は、黒く鈍い光と共に、少しずつ形を変えかさを増し、やがて手のひらよりも少し大きい、赤黒い立方体に変わった。

「ふぅ……」

「い……痛くないの? ソレ……」

「ん、あぁ、まぁ多少は……ね」

 右目を瞑ったその顔は、ウィンクをしているようにも見えなくは無いが、空っぽの右眼窩からは、一筋、赤い血が流れていた。

「なんで体の一部なんだ? わざわざ自分の肉体から切り離さないと使えないなんて……」

「はっはっは! そりゃあ、大分と無理のある技術だし、僕が持ってるのは試作品だし、自分の肉体の一部を媒介にしないとうまく機能しないんだ」

 そう言って、グレインは、アイアに向けて軽く、ブラッドボックスを投げてよこした。

「あ、わ!」

 落としそうになりながらも、それを手に取るアイア。

「え……これをどうするの……?」

 グレインは不思議そうな顔をするアイアが持つブラッドボックスに触れ、

封印Look、一時解除、使用者開放」

 詠唱を終えると同時に、一瞬、ブラッドボックスが青白い光を放った。

「お父さん……?」

「アイア、これで……そうだな……火属性の魔法を使ってみなさい」

「え゛……私は氷属性以外の魔法は……しかも火って……」

「いいから、使ってみなさい」

 グレインにそう言われ、しぶしぶアイアは魔法を唱える。

「……フェリ・ウォク!」

 〈火属性、弾丸の呪文〉。

 ここで一つ確認しておくべきことは、魔力にはそれぞれ、どのような属性を扱うのに向いているかという“適正”があり、そして、アイアの魔力適正は、氷属性だけずば抜けて、後はてんでダメという、非常に歪なものだということである。

「あっつぁああああああああああ!!!!

 急に頭を押さえて転がりまわるロンガ。

「ふぇ、え!? 何!!? ロンガ!? 大丈夫!!?

「アイア……ダメじゃないか、そんな人の近くで魔法を使っちゃ」

「あんたが使えって言ったんでしょ!!?

 あぁ、ロンガ……えーと、エイク・ブリザ!!

 アイアの手の中のブラッドボックスから放たれた冷気が、燻ったロンガの頭を冷やす。 ただし、急激に。

「ちょ、やめ、痛い! 冷た痛い!!!

「あ、ご、ごめん!」

「~~~~~っ……たく……」

 ボサボサ白髪の頭をさすりながら、ロンガは体を起こす。

「はっはっは! 見ての通り、魔力の“型”を変えることが出来れば、その適正も同じく変えることが出来る」

「ハ……なるほどな。 コレを応用すれば、“精霊憑きスピリウル”でも魔法が使えるってわけだ」

 ロンガのその台詞は、未だに頭を押さえながら。

「もう……返すわよ、コレ」

 ブラッドボックスをグレインに差し出すアイア。

 グレインはそれを受け取りながら、

「はっはっは、お気に召さなかったようだね。 残念だ」

 と、言った。

「……結局、あの野郎は何がしたいんだ? こんなもん作って…… それに今更オレに何の用がある? オレとしても、あいつの首を捕ることを目的にしている以上、近づいてきてくれるのは有り難いが……」

 憎悪や嫌悪感を露にして、ロンガはぼやく。

「……僕も気になってね、いろいろと調べてはみたが、“四大精霊”と、そう呼ばれる“精霊憑きスピリウル”を集めている、という事までしか掴めなかった」

「四大精霊……!? それってまさか……」

「…………!!

 眼を見開き、自分の利き手ひだりてを見つめるロンガ。

「ロンガ君が持つ“風霊シルフ”、そして“火竜サラマンダー”、“水精ウンディーネ”、“地王ノーム”……

 その四種の精霊……“神器スキル”に宿る能力を総称して“四大精霊”」

「四大……ってことはやっぱり強いの?」

「ハ、そんなに強くねーよ」

 悪態をつくように言うロンガ。

「そうなの?」

「はっはっは! 『強くない』という表現は正しくないな。 正しくは『もっと強いのがいっぱい居る』んだよ」

「………………!!

 グレインの台詞に、アイアの背筋が凍る。

 アイアから見ても、ロンガの能力はずいぶんと高い……強いものだった。

 セドソンでのキョウコ・フレアライズとの決戦、ディルズでのキロ・ウッドビレッジとの戦闘、それらを間近で見ることの無かったアイアには、それで傷ついた姿を見ていても、ロンガが実際に苦戦する姿が、明確には想像できなかったのだ。

「そういえば、キョウコさんも……」

 ロンガの方に目をやるアイア。

「あー……あぁ?」

 キョウコの名前が出てもいまいち反応の薄いロンガ。

「ほら、セドソンで戦った、“火竜サラマンダー”の!」

「あぁ! あいつか!」

「忘れてたんかい!!!

「ん、キョウコ? 誰だいそれ」

「旅の途中で(主にロンガが)戦った相手でね。 その人の精霊が“火竜”だったんだよ」

「ハ……あいつか……下手すりゃキロより強いかもな……前は何とか勝てたが、二度とは戦いたくないし、会いたくもないな」

「んん?」

 ロンガの台詞にアイアが怪訝そうな顔を向ける。

「会いたくないってのはどうして?」

「単純に、あの性格が面倒くさいんだよ……」

「………………」

 アイアもそれ以上は、口を噤むしかなかった。

「はっはっは! 誰にでも、苦手な人はいるものだね。 ……よいしょっと」

 そういいながら、グレインは立ち上がる。

「ん? どこかいくのか?」

「はっはっは! まぁー、歩けるくらいにはなってきたし、そろそろキアラとリックスを迎えに行かないとね」

「「あ」」

 ロンガとアイアが、同時に『しまった』と、口をぽかんと開ける。

「……君たち……絶対忘れてたろ……」

「あら、どこかへ行くの? なら私たちも連れて行ってよ」

「「「………………!!?」」」

 唐突なその声に、アイアとグレインの二人は急激に振り向く。

「え……まさか……」

「ハ……」

 ロンガは一人、ぎこちなく、ゆっくりと、その首を回してゆく。

「はぁーい、ロンガちゃん久しぶりー☆」

「星だと!? ってかやっぱりその声は……」

 ふわりとした、赤みがかった長い茶髪。 背はロンガよりも高い。

 黒いコートを羽織った彼女の名は、

「キョウコ……フレアライズ……!!

「わ、私も居ますよロンガさんにアイアさん!!

 キョウコの後ろから現れたのは、アイアほどの身長で、色の濃い赤毛のショートカットの少女。

「メイコちゃん! ひさしぶりー!」

「お久しぶりです、アイアさん!」

 フレアライズ姉妹。 協会の街セドソンで、ロンガたちと出会い、姉のキョウコとロンガは死闘を繰り広げたのだ。

「ロンガさんたちがセドソンを発ったあと、私たちも旅に出たんです」

「へぇー、そうだったんだ!」

 楽しそうに会話をするアイアとメイコを尻目に、ロンガの顔はうかなかった。

「あれ? ロンガちゃん、どうしたの?」

「ロンガちゃんて! やめろよ……」

「ぷ……くく……ロンガちゃん……ぷくく……」

「はっは……はっははははは……!!

「そこぉ! 親子そろって必死に笑いこらえてんじゃねぇ!!!

 アイアとグレインに向かってロンガが叫ぶ。

「はっはっはっはっは! いやぁ、なるほど、さっき言ってたのはこの人達だね」

「ん? さっき?」

 グレインの声に、メイコが反応する。

「それにあなたは……?」

「ハ、アイアのお父様だそうだ」

 グレインの代わりにロンガが言う。

「「え…………」」

「ふぇっ……メイコちゃんにキョウコさん……? なにその反応……」

「はっはっは!」

 頭に手をやってカラカラと笑うグレイン。

 それを見て、あきれたようにロンガが言う。

「ハ、ったく……噂をすれば影が差すとは言うが……ほどがあるだろ……」

「いま、ちょうどキョウコさんの話をしてたんだよ」

「あぁ、こっそり聞いてたから知ってるわ」

「ハ、な、何!?

 うろたえるロンガ。 当然では、あるか。

「あはは、まぁ、ロンガちゃんには後で地獄を見てもらうとしてぇー、『七罪星』について、私たちにも話、聞かせてくれない?」

「はっはっは! あぁ、構わないよ」

 かくして。 ここに“風霊シルフ”と“火竜サラマンダー”、四大精霊の内の二種がそろったのだった。

 そして。 いよいよ『七罪星』の目的が判明する。

「……なんか、前より性格が酷くなってる気が」

「んー? なんか言った、ロンガちゃん?」

「ハ、にゃんでもねぇよ……」

「すっごくなんでもなくなさそうなんだけど」


 


 


 


 

第八閃――END――

 

 

 

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